ラオスは、日本の本州ほどの広さである。正確な人口はわかっていない国だが、600万人以上が住む。人口密度は日本に比べれば低い。人口は少ないとはいえ、ヨーロッパ諸国の基準でみると、普通サイズの国である。北に中国、西にミャンマー、南にタイ、カンボジア、東にベトナムと接する。いわば、東アジア、東南アジアの内陸の中心に位置し、陸の十字路にある。この地理的環境は、道路が整備されれば経済成長を加速させることになると予想される。
 ラオスは地下資源が豊富で、オーストラリアの企業が銅を大規模に採掘しているほか、中国が狙っている希少メタル資源も数多い。日本はこの分野では完全に国際競争から脱落している。日産自動車は、自社で販売店を持たず、代理店の権限を2010年に売り飛ばした。これから自動車ブームを迎えるラオスなのに。日本企業は小さな市場を大事にしなくなったかのようだ。
 ラオスは、今、世界的に旅行ブームの中にある。ヨーロッパ人の「行きたい国No.1」は、ラオスである。しかし、日本でのラオスの知名度はいまだに低い。アメリカ人の行きたい国No.1もラオスである。過去、最大量の爆弾を投下したラオスに、アメリカ人が押し寄せているのだ。日本人でラオスの地理的位置を理解している人は、5人に2人くらいだろう。「ラオスって、どこにあるの?」といわれることが少なくない。
 ラオスは後進発展途上国で、その「後進性」から抜け出し、「ふつうの発展途上国」になるのが現在のラオスの「夢」である。先進国を目標に掲げていないところがよい。謙虚な国なのだ。
 さて、本稿では「ラオスにないものとは?」というテーマで書き進めてみたい。おつきあいください。

 【もくじ】
 
ラオスにないもの【1】 割り勘
 ラオスにないもの【2】 「なぜ」の問い
 ラオスにないもの【3】 海
 ラオスにないもの【4】 本
 ラオスにないもの【5】 怒り
 ラオスにないもの【6】 公務員採用試験


【著者紹介】庄野護(しょうの・まもる)
1950年徳島生まれ。中央大学中退。アジア各地への放浪と定住を繰り返し、文化・言語の研究を続ける。タイ、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、スリランカ、パプアニューギニア、ケニアなど、アジア・アフリカでの活動歴は40年、滞在歴は20年ちかくになる。多様なフィールド体験に裏うちされた独自の視点をもつアジア研究者である。著書に『国際協力のフィールドワーク』『スリランカ学の冒険』『パプアニューギニア断章』(南船北馬舎)、『学び・未来・NGO NGOに携わるとは何か』(共著・新評論)。現在、ビエンチャン在住。

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