旧著探訪 (10)

 旧暦はくらしの羅針盤  
■小林弦彦著・生活人新書(NHK出版)・2002年■

 地球温暖化といわれて久しいが、気象庁によれば、今冬は昨年12月から今年の2月の平均気温が平年より1.52度上回る記録的な暖冬であったということだ。たしかに2月の天候は春を思わせる暖かな日が続いた。ところが3月に入って季節が後戻りしたような寒い日が続いている。
 「2月と3月が入れ替わったような気候ですなあ」と、さっきビルの管理人のおっちゃんに声をかけられた。
 暖冬になるか、冷夏になるかは日本の経済活動にも大きな影響を与える。昨冬は寒さ厳しく防寒衣料がよく売れ、在庫払底、低迷が続くアパレル業界には一条の光がさしたが、今冬はその逆であるからたいへんだ。アパレルに限らず家電業界でも、クーラーやら暖房器具の売れ行きは季節の加減に敏感に反応する。飲料業界だってそうだ。四季のある国では、冬は冬らしくきちんと寒く、夏は夏らしくきちんと暑く、といったふうに、季節のメリハリがくっきりすればするほど、たぶんみんな幸せに暮らせる。
 冷夏・暖冬というのはできれば避けたい。避けられないものであればせめて予測しておきたいというのがビジネス界の切実な希望であろう。
 今回紹介する本は、「旧暦を参考にすれば気候の予測はつく」という内容である。旧暦。正確にいうと、太陽太陰暦のことである。
 私たちがふだん使っているカレンダーは、太陽の運行をもとに1年を365.2425日に決めた太陽暦。4年に1度閏年を配置して微調整するグレゴリウス暦というものだ。
 太陽太陰暦は、基本は月の運行を中心にした太陰暦である。月の運行は29.5日。大の月(6回)が30日、小の月(6回)が29日、1年が354日となる。太陽暦との誤差が1年で11日発生するので東アジア圏では四季がずれてしまう。そこで「閏月」というものを考え出した。この閏月は19年に7回配置され、その年は1年が13ヵ月になる。
 以上は私の付け焼き刃的ガイダンスである。詳しくは本書にあたってください。
 さて、この閏月がどこに入るかで気候が変動する。旧暦では1〜3月が春、4〜6月が夏、7〜9月が秋、10月〜12月が冬という区分になっている。
 本書に紹介されている事例では、1995年。この年は8月に閏月が入って8月が2回あった。「梅雨入りが早く、暑さが厳しい。秋は残暑厳しく」という著者の予測。冷夏を発表していた気象庁とはまったく反対の予測であったが、実際は旧暦が教えてくれたとおりになった。
 もうひとつ。2001年。この年は4月に閏月が入った。夏が4ヵ月になったわけだが、記録的な猛暑となった。
 本書に掲載されていた「新旧暦での季節のずれ」という表を参考に私も昨夏(2006年)を予測していた。昨年は閏月が7月に入っていた。「残暑は引っ張る」と言いふらしていたのだが、その通りになった。
 ところで2007年はどうか。閏月がないので、半可通な私ではうまく予測できないのだが、春節(旧正月)が2月18日で例年よりかなり遅かった。ということは、肌に心地よく感じるほどの暖かな春はなかなか来ないはずだ!と断言しておこう。最近の寒さも説明がつくでしょう!?

2007.3.23(か)
Copyright(C) by Nansenhokubasha Publications. All rights reserved.■南船北馬舎
■旧著探訪(9)へ トップページ刊行物のご案内リンクと検索
■旧著探訪(11)へ