■アフリカで一番美しい風景■■庄野 護
サイマラは遊牧民マサイ人の土地でタンザニアとケニア国境にまたがる動物保護区になっている。野生動物の密度と種類の多さで観光客にも人気があるが、人気の秘密のひとつは近代的な宿泊設備が多数あるからだろう。首都のナイロビからは、数時間の距離にある。途中までの道路はおおむね舗装され、昼間なら安全にドライブできる。
 地平線が見えるほどサバンナの大地を川幅50メートルほどのマラ川が曲がりくねって流れ、川の中にもワニがいたりカバの群がいたりする。それらを含めてサバンナの風景が一番美しくみえる高台のポイントに小規模な五つ星のホテルを造ろうとした日本人たちがいた。野外のジャグジー風呂に入ってアフリカ一の雄大な風景を見る。物語は伊集院静が小説に書いて文庫本にもなり、現実にそのホテルは営業されている。

光客は、首都のナイロビから1日2便の小型飛行機でやってくる。飛行場には、ホテルの日本人スタッフが四輪駆動の車で迎えにきてくれる。飛行場からホテルかでの短い道中にも、何種類かの野生動物が見られる。ホテルでの夕食は日本でも名の知れた料理人のコーディネートによる本格的なフランス料理。ヨーロッパ人の客も多い。
 で、私も何万円かを使ってそのホテルと風景を見るために一泊旅行にでかけた。その感想をひとこと書く。男の夢は、実現すれば夢でなくなる。「こんなものが夢だったのか」といわれるのがオチだ。

題は「アフリカ一の風景」である。今回の2度目のアフリカ旅行で、私はケニア西部の茶園地帯をうろついた。そして、そこが世界で一番美しい茶園風景だと思った。スリランカやバングラデシュやインドやネパールやマレーシアやインドネシアや中国や日本などで茶園地帯を見て回ったことがある。しかし、ケニア西部ほどの広がりと遠近感のある茶園の風景ははじめてだった。しかし、残念ながら見飽きてしまう風景であった。2カ月近く滞在したホテルの窓からはきれいに手入れされた茶園が眺められた。しかし、熱心に眺めたの最初の一週間だけだった。

にとってアフリカ一の風景は、茶園地帯の南西にひろがるグシイ(キシイともいう)の高原にあった。見渡す限りの緩やかな小山の連続なのだが、すべて人の手が加わった大地の風景なのである。山岳地で自然林のほとんどない見渡す限り畑だけの風景など日本で想像できるだろうか?世界中どこにもない、ここだけの風景である。
「イギリスとヨーロッパの最も美しい風景を寄せ集めたようだ」
 はじめてこの風景を見たイギリス人たちは、書き残している。
「一日中見ていてもあきない」と。
 私もまた見飽きることのない風景を見ながら、そこに自分だけのロッジを造る夢を見ていた。
南船北馬舎

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