【第6回】
イラン・チャドルという服
 ランの街には何か重い空気が流れているように感じる。それはきっと真っ黒の布で全身を隠して歩く女性の姿を見てそう感じるのかもしれない。イランでは女性は体のラインはもちろん髪の毛も隠さなければならない。ロングコートを着て、頭にスカーフを巻くのもOKだけど、大人の女性は「チャドル」という黒の一枚布をまとい、顔だけを出す。高級レストランでも黒のチャドル姿のまま食事をする。国内線のスチュワーデスや空港職員は紺のスカーフに紺のロングコートだった。
 しかしこのチャドルの下は日本と変わらないような格好をみんなしている。ジーンズにTシャツやスカートとか、ごく普通の格好だ。チャドルの下は西洋文化なのだ。お邪魔した家では、お母さんがジーンズにノースリーブのシャツを着て、アメリカの西海岸を歩いていそうな格好で水タバコを楽しんでいた。外出する時だけ黒いチャドルで身を包む。彼女の若い時の写真を見ると長い髪にジーンズ姿で「外」で友達と一緒に写っていた。東京ディズニーランドに行ったときの写真もみたけど、この時は髪に軽くスカーフを巻いていたが西洋人の様にもみえる。トルコへショッピングに行ったというので買った物を見せてもらったら、ほとんどが洋服で体に張り付くようなベルベットのワンピース、ヒールの高いサンダルなどがあり、知り合いの結婚式に着ていくと言っていた。チャドルとは基本的に外出時に使うものなのだろう。チャドルだけを見ると閉鎖されているような気もするけどみんなお洒落に興味もあるし、知りあった女子高生の家に行ったら、ロシア版タイタニックと英語版ミスタービーンのビデオがあった。
 イランビザを申請するときの写真はスカーフで髪を覆った写真にした。今もこの写真が手元にあるけど凄く「変」なのだ。これを履歴書に貼って提出したら絶対印象に残るだろうなと思うくらいおかしな写真だ。
 イランを旅するうちにスカーフの巻き方もだんだん上手くなる。バンダナを巻く要領ではなくモスリム風に巻くことがポイント。宿の廊下にちょっと出るときもコートを着てスカーフをする。男性は短パンですね毛を出して宿の中を歩き回るのはタブーである。すね毛がなくてもダメです。面倒なのと、どうせジロジロ見られるからという理由でシャツと帽子で街を歩いていたけど、ある日、レセプションのおじさんからポツリと「スカーフとコート姿の方が似合ってるよ」と言われそれからはきちんとイスラム式にした。ジロジロ見られる原因として私のコートが短かったことと、スカーフの色が黒や紺じゃなかったことにある。イランでは髪を少し出したり、短めのコートを着たりしているのは「不良っぽい」ことらしい。やっぱりなにかと女性にとっては不便な街だと思う反面、イランの女性達が世話をしてくれる。突然「大丈夫ですか?」と英語で声をかけてくれ、そこで道を聞いたり、話をちょこっとしたりする。 
 実際にスカーフを巻き、コートを着て街を歩くことで「イスラム」というのを感じさせられた。この黒い一枚の布がとても大きな国境というか壁のように感じる。いつまで身を包まなくてはいけないのだろうか?私は太い腕と太い足のラインを世間にさらして歩いているけど、幸せなことなんだろうなぁ。
 、街では細くて薄い体型の人が多く歩いてる。そういう人たちの中にいるとチャドルで体を覆いたくなる。体のラインを隠すということは太っている人には決して悪いものではない。もちろんチャドルにはサイズにこだわることもないだろう。ピタピタのTシャツを着るのにためらう必要もないだろう。イランの人がマトンと甘い甘いお菓子をたくさん食べられるのはきっと「チャドル」のおかげだ。いくら太っても大丈夫なんだから。それでイランの人って体の大きい人が多いのかなぁ。でも私はマトンを食べてないのに、シュークリームをキロ単位で買ってもないのに何で……?
 そう考えるとチャドルも暗い印象ばかりでなく少しはイラン女性に役立っているのかもしれないなと思った。
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