『柏倉通信』リポート……No.11
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  開発、ばんざぁい!

 何が「開発ばんざぁい」かって、発端は東京の土建屋さんがカシャグラ近辺を開発するというアドバルーンを上げた事に始まる。山を削って団地をつくるというのだ。しかし、それが随分と大きな開発になるものだから計画を提出されたシャマガタ県は「駄目!」と言った。
 本書の読者ならご存じだと思うのだけど田舎を開発するにはいろいろと厳しい制約がある。その制約の中から国土利用計画法とやらを楯に取って開発業者に「開発はいけません」と県が言ったのだ。けど、そんな風に拒絶されたからって開発屋たるものがおめおめ引っ込むはずはない。地元民は開発を望んでいる、と業者は一歩も引かない。
 私にしてみれば困った。土建業者はこのカシャグラ辺りの山々を削って人口三万のニュー・タウンを作るとかの意気込みだからだ。トタン屋根の我がボロ屋から朝に夕に眺める鷹取山も舞浜のディズニーランドみたいにレジャーの砦にしてしまうらしいからだ。
 山暮らしを求めて東京を脱出したのに、これでは元の木阿弥だ。田舎の不便こそ心身健康な暮らしをするための必須条件と思うからこそ山里にやって来たのに、東京の土建屋が私を追うかのようにシャマガタへやって来て山を買いあさって、私から田舎を取り上げようとしている。てやんでぇ、トレンディ・ドラマに出てくるような喧騒の雑踏も出来合い遊園地の馬鹿騒ぎも要らねぇんだよ、オレは!
 おお、久々に興奮してしまった。冷静になれ。んん…まともに考えればシャマガタ市の人口は二十五万程に過ぎないのだから、この辺りの山を潰して人口三万もの団地をブッ建てるなんて何となくうさん臭い。
 仙台ではときめきの錦が丘という数千戸の大団地を造った業者だというけどあちらはそもそも百万都市の風格がある。シャマガタ市とはパイの大きさが違う。三万の新興住宅地に対応する余力はここにない。夢の都市計画は絵に描いた餅かも知れない。
 この餅の話、実は一昨年辺りからふくれ始めた。そのふくらみかけた餅を眺めてよだれを流してしまったのが山の地権者たちだった。
 昨今は持っていても何の役にも立たないのが山なのだ。買ってくれるお方があればノシ紙つけてでも差し上げたいのが山なのである。
 「やれ山を守れ、自然を壊すなと言うけどサ、それは山を持たない都会の連中が騒ぐんだよね。俺たちは山では食っていけなくなったから仕方なく街へ働きに出た。働きに出ると手入れが出来ないから、悲しいけど山は荒れる。おまけに山菜ブームで都会の連中が車でやって来て思いっきり山を踏みにじっていく」街で働く山の地権者は悔しそうにそう言う。
 車で入れる山という山は山野草を乱獲する街の者の足で踏み荒らされている。おまけに産業廃棄物という名の都会ゴミが山の谷底に捨てられる。事務机、冷蔵庫、古タイヤと廃車のボディ。おまけに開発残土。無差別無分別の粗大ゴミが荒れ果てた山の住人になっているのが現状なのだ。
 「そんな現状なら土建屋に山を手当たり次第買わせて、メッチャ開発させて人口三万の街を造った方が無法に荒らされるよりいいか?」と開発が嫌いな私も、ついブルドーザーの神様に手を合わせる気持ちに揺らいでしまいそう。
「みんなが売ると言えばオレも山売るッダナ。いざ売ッ時のためにオラの山の土地さも杭打って境界はっきりさせっか」
 勤めが休みの日曜日に久し振りに山へ入った都会勤めの地権者は杭を打った。そんな準備をしながら山が買い取られるのを心待ちにする彼ら地主の気持ちは痛い程に分かる。
 開発されるという山の一つには仁田ノ沢という部落がある。いや、正確にはあったと言うべきか。
 仁田ノ沢の人達は、恐らくなのだけど、荘園制度があったころからここに住んで山を守っていたのだと思う。東海林さんとか庄司さんという姓がそう教えてくれるのだけど、山には長い歴史があるものなのだ。でも、市の勧めで村を捨て、二十年ぐらい前、仁田ノ沢の人々は山里の我がカシャグラに移り住んだ。
 捨てられた村を訪ねてみた。林道から山に入り水神の池、カエルの沼、毘沙門堂を越え、カモシカと何度も顔を鉢合わせしてから山の上の仁田ノ沢にたどり着く。茅葺きの家々は多く朽ち果てて見る影もない。ただ一件、夏の別荘代わりに使われている家があってどうにか形を保っている。計画では三十年後、カモシカと野兎とキジと蝶が遊ぶここら辺りは文化的なサラリーマン家庭の新興住宅街になっているはず……。
 え、三十年後だって?
 そう、開発計画は三十年後に完成するという。なあんだ、そうならいきり立つこともないや。日本という国では半年先のこともケセラセラ、先の事など分らない。誰もが皆お手上げ。だからもろ手を上げて言うけど……開発ばんざぁい!



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